おせんの江戸日誌

江戸と平成の世を行きつ戻りつの書き散らし

浮気妾 


神田旅籠町にあるこの店は煮売家(にうりや)で、けっこう繁盛している。
煮売屋といっても他の店のようにおかずを売るのではなく客に酒や肴を出す居酒屋なので、まず普通の女つまり町家の
女房とか長屋のおかみさん連中などは近づかない。

その煮売屋に昼七つ(およそ十六時)頃に入って だらだらと酒を飲んでいた艶っぽい一人の女が、入ってきた客に
『 あれ お珍しい! 半ちゃんじゃないかえ 』と、ヒラヒラと手招きしたのが暮れ六つ(十九時)の頃。
それでふたりは差し向かいで飲み始めたわけだが女の前に座った半ちゃんこと半次、これがめっぽうイイ男。

  「お銀さん、囲い者になったと聞いたが、ますます女っぷりが上がったじゃないか。旦那が羨ましい」

  「けど、旦那はジジイで役立たず。お手当はたっぷりだけどつまんなくてサ。
   今度役者でも買ってやろうかと思っているのサ。
   半ちゃん、なんか面白い話ないのかい」

  「面白い話どころか こっちは十日までに二十両ないとならねえ事があるが五両でもあてがねえ。
   それで今も湯島天神の富くじを十四、五枚買ってきたところサ」

  「富くじか ・・・ 一千両当たれば役者が何人買えるだろ ウフフ ウフウフ

そこで、何事か思いついたらしい半次。
お銀の隣に場所替えし、とろりとした目つきになっているお銀の耳に何事か囁き始めた。
そして当のお銀はといえば、いつのまにか半次の手を撫ではじめている。
                          酒セット 踊る男
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怪異 


冬の月は格別きれいに思えるのですが、その日も月の美しい夜でございました。
酒は飲むまいと思っていたのに飲んでしまった伝蔵、すっかり酔っぱらって飲み屋を出たのがそろそろ
町木戸も閉まろうかという時分。それで、しばらく歩いてふと我に返ったのが溜池どんどんのあたり。
当然ながら周りには人っ子一人いやしません。

へ!? 何でこんなとこに? とキョトキョトしていると、いきなり目も開けていられないような突風が
起こり目をつむった伝蔵は思わずしゃがみこんだのですが ........
そのうち風は吹き止み、目を開けた伝蔵の目の前にはさっきまで無かった山積みになった米俵が!
と、思いきや、その米俵の山がむくむくと動きだし、じきにそれは米俵なんかじゃなく雲をつくような
大男であるのが知れました。
ゆうに六尺二寸(身長188cm)二十八、九貫(体重106〜107kg)はあろうかというソイツが素っ裸で
突っ立つサマはまるで地獄の閻魔様のよう。。。。。

     『ヒ、ヒエーッ 』

薄れゆく意識の中で『モウ 金輪際、酒は飲まねえ』と伝蔵が思ったかどうかは定かではありません。
       大入道

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花と大名 


        城

   ここは西国の某藩、つい先日幕府より遠国の治水工事を命ぜられました。
   かかる費用は莫大なうえに持ち出しですから貧乏なこの藩にとっては頭が痛い事この上なし。
   かねてから歌を詠むのが好きな殿様も、こうなってはそれどころではありません。

   そんなある日、今を盛りの山吹の花をさきほどから飽かず眺めていらっしゃる殿様に
   そのあまりに長き鑑賞に耐えかねたかして、お付きの腰元のひとりが

     「さだめし良い御歌ができたことと存じまする」

   と、御声がけしたところ

     「いやいや歌など思いもよらぬこと。
      あの山吹色のが せめて二、三千枚ほどもあればと思うていただけじゃ」
                                       踊る男
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売り店 


半日かかって大番頭の儀助とふたりして帳簿をにらみ算盤をはじいていた鶴田屋嘉兵衛。
店の経営もますます順調なのが確認できホッと胸を撫でおろし、新作の菓子をお茶うけに四方山話に入ります。

   「ところで旦那様、岸田屋さんが店をたたんでおしまいになるとか
    で、土蔵二つ付きのその店を売りに出す話もあるそうでございます。
    あのあたりでしたらウチの子店に手頃かと思いますが」

   「岸田屋? はて、聞いたことのあるような ..... 」

   「ほら、あの黒門町の! 弓屋の左ッ側の小間物屋でございますよッ。」

   「弓屋の左 ............ 弓屋ひだり の旦那さま ... プップププーッ プァッハッハッハァ」

店の者には常日頃からギョロリ目玉でヘの字口の嘉兵衛がいきなりの破顔一笑。
これはてっきり旦那が自分の話に乗り気になったと思った儀助。
その店を任せてもらえたらと、これもウフウフと嬉しそう。



                   店先
                               思いだし笑い
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裁ち包丁 


きょうは昼過ぎに珍しく顔を出した参八と茶飲み話に花を咲かせたのですけど、茶うけは参八が持って
きた竹村の『最中の月』になったのは当然の成りゆき。
ところでこれが あたしの大好物で、それが箱に十六個も入ってたもんだから笑いと食う手が止まらない。

最中の月は小豆餡のねっとり具合と程よい甘さが評判で、贈答品としてもよく使われているんですよネ。
この竹村というのは仲の町にあって、江戸では名の知られた菓子屋で巻煎餅もよく売れているんですけど
あたしゃ誰が何を言おうと最中の月が好み、これだったら幾らでも食べれますネ。ホント。

  「あ〜ぁ 姐さんたらモゥ そんなパクつかなくっても ....... 多めに買ってきたんですから。
   あっしは一ツ食うのが関の山越え安寿恋しやホウヤレホゥ。あとは姐さんのでげす。
   そうそう!こないだ品川の倉田屋に化け猫が出たともっぱらの噂でしてネ。
   夜中に客が目を覚ますと、隣に寝てた筈の女が火の消えた行灯(あんどん)の油をピチャピチャ ...

     ウギャ〜 出たァッッ、、、、、   」

  「ムグッ ウエッ よしとくれ! 大声に吃驚して最中が喉に詰まったじゃないか」  
   
そんな楽しいひと時もあっという間に過ぎて気がつけば夕方で、最中の月は残り三ツだけ .....
これからお座敷があるのでと、腰を上げた参八が「実は先日褌を縫ってもらった御礼でございます」と
新品の裁ち包丁を差し出したのには驚いたり嬉しかったり。
これが無かった間ずいぶん縫い物に不便したからねえ。
あの時、あたしを怒らせた参八を目がけて投げた裁ち包丁は井戸の中にドボンだったもの・・・
                          裁ち包丁  
                              六人めの男
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深川ガタクリ橋 


カマス

深川佃町の遊所が軒を連ねるこのあたりは通称アヒルと
呼ばれている。
なぜアヒルかといえば佃島の網干し場が近い場所柄ゆえ
網干(アミヒル)のミの字を略してアヒルなのだとか。

懐があったかい時はそこの市川屋で遊ぶことにしていた
鳶職の仁八、この頃ではアヒルから足が遠のいている。

というのも、アヒルに行くにはガタクリ橋(蓬莱橋)
渡らないといけないのだが、この前市川屋で遊んだ帰り
にガタクリ橋を渡ってすぐの所に今贔屓にしている店を
たまたま見つけたからなのである。

そこは客の五人も入れるかどうかの狭くて小さな飲み屋
で酒が特別旨いわけでも珍しい肴があるわけでもない。
贔屓にしている理由はただ一つ、女である。
店をやっているおイネという年若の化粧っけの無い女に
惚れてしまったのかもしれない仁八なのだ。

初めの内は市川屋の帰りに寄っていた仁八だったのだが
この頃では遊び帰りの顔をおイネの前にさらすのが厭に
なってきて、アヒルまで足を伸ばさずにいるのである。

酒をちびりちびりと飲んで長居を狙っている仁八の鼻先
に、おイネの焼くカマスの匂いが漂ってきている。



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木の葉笛とお手玉 


葉っぱをくるくる巻いて筒になったのを片方だけ指でつぶした笛でアタシも遊んだことがある。
きょうも長い間それをビィビィ鳴らしていた隣のおみよちゃんだったけど、さすがに飽きたらしい。
笛の音が止んだあと自分ちに入ってく音がし、しばらくするとまた外へ出てきて歌が始まった。

      カカさん トトさん 腹へった
      でも いやいや いいやいや
      栗のモチも いいやいや
      米のモチも いいやいや
      そばきり そうめんくいたいな

夕日が射した障子に小さな丸っこい影が上がっては落ち、また上がるのはお手玉だネ きっと。

もうじき芋が煮あがるからおみよちゃんと一緒に食べようかね。
ウンって言うか、それとも案外『いいやいや』って言うかねえ。ふふ
                       お手玉
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これは珍味 


三河産で知られた海鼠腸(このわた)は海鼠(なまこ)の腸で、これは酒の肴に喜ばれる。

きょうは主人の大切な客をもてなす宴の当日。
客に出す前に味見のつもりで口にした料理人だったが、ずるずると口の中へ入ってくるものだから
ついつい度が過ぎてしまい

 「これ、今からお座敷へ出すのを みな食べてしまっては どうにもならぬ」

と側(そば)から言われ、口の中から引き出したのを小鉢に納めるや、何食わぬ顔で

 「さすが海鼠腸だ。出這入りが上手い。まったく」
                        このわた
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くすり 



きのう昼九つあたりから体調が悪くなっちゃいまして、これはもうてっきりすっぱり
平成で流行りの『のろ』でも貰っちゃったかと焦りました。ホントに。

ですから昨夜も今夜も晩酌は無し、というか飲む気にもならない ....
ま、結局『のろ』じゃなかったので今宵一夜ぐっすり眠れば元通りになれそうでございます。

竜竹先生に診てもらうことも一瞬考えましたが、赤山の御隠居がホロ酔いでおっしゃった言葉

 「あやつが診た者のうち半分は助かり、残り半分は(薬の量など誤り)盛り殺された ・・・」

という言葉が冗談とは思えず、平成の医者にお薬を出して頂いたのが良かったのでしょう。

                       酒
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思いだし笑い 


夜も更けて、ここは菓子商鶴田屋嘉兵衛の店の奥まった一室、主人夫婦の寝間。
隣には女房のお民がすやすやと寝息をたてている。
が、嘉兵衛は頭まですっぽり被った布団の中で、さっきからこみ上げてくる笑いに苦しんでいる。

実はきょう菓子組合の寄り合いがあり、かねて参加したことのない宴席に流れたのが間違いのもと。
そこで、幇間がサラリと披露した口合(くちあい:しゃれ)に嘉兵衛は手もなくヤラレてしまったのである。

宴席とか地口(じぐち:言葉遊び)にまったく慣れていない無防備とも言える嘉兵衛を襲った口合というのが

 「足袋屋道連れ世は情け、弓屋左の旦那様 菓子屋貸して母屋取らるるも戸棚百までおりゃ九十九まで

 「タビ屋 道連れ .... ウッヒッヒ 弓屋ひだりの ウヒョヒョヒョホ  戸棚百!。。。こりゃたまらん アヘ〜


           ウブな鶴田屋嘉兵衛の夜は果てしなく長い .......
                        鶴田屋嘉兵衛
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負けおしみ 


神田同朋町に住む医者の薮中竜竹と鐘ケ淵に隠居の赤山老人は二十年来の碁友だち。

きょうは本腰入れて碁の勝負を、と竜竹宅へ泊まりがけで来た赤山老人だが勝負の方はさっぱり。
腕は互角のはずと首をひねる赤山老人と、連勝でニヤニヤの竜竹が金沢町の湯屋に出かけたのが暮れ六ツの頃。

夜道を歩いてすっかり体が冷えきってしまった赤山老人が、湯屋に着くなり

   「おお寒 〜」

と、着ていたものを くるくると脱ぎ捨てるや 湯殿へ駆けて行くのを見とがめた三助

   「モシモシ、まだ頭巾(ずきん)をおかぶりですぞ。。。」

それを聞いた赤山老人、ハッとしたが碁に負けて頭に血がのぼっていたせいもあって

   「家では常にこうじゃ!」
                         湯桶と手ぬぐい
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平野卜内 

 
ももひき長屋までたどり着ければ、平野卜内(ひらのぼくない)の住む家はすぐに分る。
なぜならその家の腰板障子には手首から先の絵と丸に卜の字が描かれているからである。
つまり、卜内は相談者の手相で吉凶禍福を見ぬき、時には助言などもする手相見が商売なのだ。

その卜内の家の前を行ったり来たりの男は同じ長屋の伝蔵で、ウロウロが止むとしばらくの間
突っ立っていたが、やがて意を決した風でガラリと戸を開け中に入って行った。

実は、続けざまに鬼女に遭遇した伝蔵、もう鬼女だけは厭だの一心での占い頼り .....
長いあご髭をしごいている卜内の前に六文の見料を置いて

  「オレが身の上、どうか見てくだされ」

  「どうれ、ふうむ。ホホゥ そこもとの寿命は百六まで、目出たいの。
   が、手の筋にキツイ女難の相が見えますゾ。
   しかし、それよりも こちらの筋がちと奇ッ怪な 。。。。フゥム 。。。
   異界のものとの縁ありと出ておる。
   ま、夜は出歩かず酒も謹んだほうがよかろう。できるかえ伝蔵殿。フォホフォホ 」

女難は鬼女だろうがそれに加えて更に『異界のもの』と縁有りと聞かされた伝蔵。
ああ、見てもらわぬ方が良かったかも、知らぬが仏と言うじゃねえか ・・・
と、心中ぼやきながらすぐ隣の自分ちに帰るその腰はすでにへっぴり腰になっている。
                      酒
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負けん気 


北斎画 春の美人

  吉原遊女は一芸ありてこそ。岡場所の女とは格が違う。

  吉原では静玉屋の花虎太夫の俳諧は実に見事なもので
  蔦屋の揚巻は鼓が上手い。他にも墨絵だとか琴などの
  上手が押し合いへし合い。
  当然なことに中にはずいぶん毛色の変わったのがいて
  角金屋の三津綾などは占いで評判をとっているらしい。

  そんな話を昨夜の客から散々聞かされた品川の岡場所
  では飛び抜けて評判の高いおきく
  朝になって化粧をしているうちにその話が思い出され
  持ち前の負けん気がむくむくと頭をもたげてきて

   「 なら、あたしゃ座禅にしよう 」



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雪舟ばり 


ねずみ算

絵はだいぶ上手くなったけれど肝心の答えがまだ出ないんですよネ。
ねずみ算の。

つがいが子を月に十二匹産み、それらが毎月同じ数産めば一年の後に
何匹になるかを絵で解こうとするのは、無理のよう ......

それにしても
来る日も来る日も描いてたものだから今じゃ家の中が反古紙だらけ。
ま、そんなわけで絵が上手くなるのも当たり前かもしれませんネ。

答えを出すのは、すっぱりあきらめて、描きためたねずみの絵の山は
向かいに住んでいる伝蔵にでもあげようと思っております。

ええ、伝蔵の仕事は紙屑買いなものですからネ。
きっと喜んでくれるでしょうヨ


    
                                     ネズミ
                   踊る男  
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そっくり 



連獅子
 「おかみさん 富十郎が森田座に出てるのを御存知でしたか」

 「いや初耳だヨ。女方の中でも一、二を争う富十郎だもの
  知らなかったでは済まされない。見に行かなきゃ!」

 「あたしは見たんですが、それがおかみさんにそっくり!」

 「エッ! 器量良しの富十郎に似てるとは嬉しい ことを」

 「イエ、演目は石橋(しゃっきょう)でしてネ。
  富十郎は赤獅子、その赤い髪の毛が似てるでごんす」

 「 ・・・・・・」






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取り立て人 


貸金の元利を日割りで毎日取り立てている高利貸しの甚兵衛、貧乏人が増えたのか大繁盛でウハウハ。
ところがやり手の取り立て人が急に田舎に帰ることになり、手が足りなくなったからサア困った。
甚兵衛はそろそろ五十に手が届こうかという年齢なので取り立てまでやるのはちとキツイ .........
そこで取り立て専門の新しい奉公人を雇うことにし、きょうはその面接の日。

一人めは若い男で絵に書いたような男前だったので
  
   『わ!男っぷりが良すぎる 。まるで役者じゃないか ...... こりゃ女房が危ない』

自分よりふた廻り下の若い女房には目の毒、と却下。
あとは強硬な取り立てなど出来そうもないナヨナヨしたのや酒の匂いをぷんぷんさせたヤツなどで
ろくなのがいなくて弱っていると、次に来たのがイカツイ体で威圧感もあり人相も相当悪い男。
これなら前の取り立て人以上に強面(こわもて)だし、女房も色気出すまい ヒヒヒ ......
悪相の上無愛想なその男を気に入った甚兵衛が

   「給金は望みにまかせよう。
    ところで今までどこで働いていた?」

と聞いたところ、男は苦虫を噛み潰したような顔でこちらをギロリと睨み、思わず縮みあがった甚兵衛に

   「ハイ、八百善という料理屋で辛子かき御用を勤めておりました」

          算盤
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冬の夜長に 


歌川国芳 画
 秋に買い、ちょい先の真冬に読む
 な〜んて、なんとものんびりして
 いい感じじゃありませんか。

 このたびアタシが買ったのは
 鶴屋南北著の東海道四谷怪談
 河竹繁俊さん校訂で金八百円(税抜)
 出版社は岩波書店、その岩波文庫。

 暖房はかいまきだけ&コタツ時々
 そんなぐっと冷え込む冬の夜長を
 ゾクゾクしつつ怪談ものを読むのは
 懐がとてもあったかいからな〜んて
 言えない火の車 、言ってみたい女心

 ま、女心は言葉のあやですけどネ
 江戸の雰囲気にどっぷり浸るのなら
 江戸の人の書いたものがいいのかも
 そんなつもりで買いました。

 ところで左の絵はWikからの頂きもの
 作者はあの歌川国芳於岩のばうこん
 という絵です。
 
 於岩が『お岩』なのは分るけれども
 でも次の『ばうこん』って何だ!?
 頭ひねったのも束の間、ピンときた
 ので『続きを読む』にアタシの回答
 を書いてみました。

 皆さま方と答えが合うかしら?
 それにしてもこの絵の伊右衛門って
 イイ男でございます。。。



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田舎者の芝居見物 


ここは菓子商鶴田屋嘉兵衛の主人夫婦の居間。茶を飲んでいた嘉兵衛が女房に

   「伯父さんも きょうが生まれて初めて堺町での芝居見物。喜んでもらえるかのう」

   「ええ、そりゃもう。それにきょうのは勘三郎の曽我兄弟ですからお墨付きです。
    お供は芝居見物に慣れている手代の吾七ですし何の心配もございません」

   「あぁ曽我兄弟のヤツ、家宝の鎧(よろい)が無くなって一悶着というアレだな?」

   「ハイ、ほんに勘三郎は上手いし良い芝居でございましたねえ  ホホホ。」

そこへ手代の吾七と伯父が帰ってきたので、嘉兵衛が伯父に茶を勧め芝居の感想を尋ねてみると

 
                  笹
   「堺町で勘三郎を見るのは一生の自慢になると楽しみに行ってみれば
    いやはや悪い日にあたってしまい、芝居はほとんど見られずじまいでの」

   「え!? 悪いというとどのような?」

   「重代の逆沢潟(さかおもだか)の鎧が無くなったとかで、そこからが大変
    舞台の役者たちが右往左往、一日その騒ぎでござりました 」

   「 ・・・・・・ 」



 縁側にかしこまっている手代の吾七、顔をうつむけにしているがその肩と髷(まげ)が小刻みに震えている。


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七屋双兵衛 


   おや、ま。
   まるに七の字、ここにこんな店あったっけ

質屋看板

   どうやら双兵衛さんて人の店らしいが、いったい何の店なんだ? 
   張紙がある ...... どれどれ
   
     質物八ヶ月限り相流シ申候 

   ふ〜ん 質屋か
   八ヶ月 ...... かいまきを預かってもらうにゃ丁度の長さじゃないか。
   大切な質草、ここに入ってる間は手入れもやってくれるに違いない。
   利子は場所代、手間賃だと思えば安いもんだ。たぶん。。。

   ただ借りた御足(おあし:金)を使っちゃ元も子もない。
   あたしにそれができるかどうかだネ ......


                   かいまき 小
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ホの字の伝蔵 


どうもイケナイ ......

近ごろの伝蔵は夜が怖い。怖くてたまらない。
夕焼け空をカラスがカァと鳴きながら飛んでいくのを見るだけで悪寒が走る。
もうすぐ夜がくる 夜になればまた鬼女が出るに違いない ......
二度も続けざまに鬼女に遭遇してしまい二度あることは三度ある。イヤもっとあるかもしれない ..... と
人には言わねど怯(おび)えまくりの伝蔵なのである。

今朝、早起きした伝蔵が井戸端で顔を洗っていると、そこへ大工の虎三が桶を抱えて来

   「伝蔵。どうだ嫁はまだ貰わねえのか? ハッハッハ」
   「いやどうも。虎さんちの喧嘩をいつも聞いてるせいでそんな気にならねえ」
   「イヒヒ何を偉そうに。お前おせんさんにホの字だろう。この前見とれてたの知ってるゾ」

確かにこの間おせんさんが家に入って戸をぴしゃりと閉めるまで見送っていたのは事実だが、惚れた
というのとはまた違う気がする。と伝蔵は思う。
あの時はゾクゾクッときたと思ったらオレの足が地べたに凍りついたようになって動けなかったんだ。
昔のオレときたら女に惚れた時は体中が火のように熱くなったもんだ。が、おせんさんの場合は違う。
ゾゾーッと来て鳥肌がたつもんなあ .... 年を取ってから惚れるというのはこうなるものなのか?

実は
伝蔵が今回二度も鬼女に見誤ったのはおせんで、おせんはそれを知っているが伝蔵はいまだそれを知らない。
知らないが、伝蔵の本能がおせんが現れると『出たゾ!こいつ鬼女だ』と報せの半鐘を鳴らしているのである。
虎三に言われて惚れてるのかも!? とは勘違いもはなはだしい伝蔵、またヒドイ目にあうのかもしれない ......
                     とんぼシルエット
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いもうと 


もうとっくに閉めてもいい時刻だというのに店の中にはまだ一人が残っている。
数日前から店のどこかに住みついたらしい虫が、コロコロコロ リーリーと鳴く声を聞きながら
おイネはちぎった蒟蒻(こんにゃく)を、熱くした鍋で手早く煎りつけ始めた。
最後の客は、おイネに背を向け入口に向いた格好で静かに酒を口に運んでいる。

 フ、相変わらずだネ 兄さんは 。あれでアタシの用心棒のつもりなんだ ......

おイネの口元にかすかな笑みが浮かんだが、それはすぐに消えた。
この店で働いていた姉さんが嫁に行ったのが三年前で、後を継いで手伝うようになったアタシを
兄さんはずいぶん心配してくれて、ずっと今夜のように来てくれてるわけなんだけど。
でもネ もういいんだ。義理なんかで来てくれなくっても。

だって兄さんと所帯を持ってすぐに姉さんは死んじまったんだし。
そうなったらアタシと兄さんとは赤の他人だもの。

それにネ、姉さんが人の男を横取りしたのは兄さんが初めてじゃないんだ。
だから サ、もうあの女の人のとこに戻っちゃえばいいのよ。兄さん。

ジジジと鍋の蒟蒻が音をたてたのを手早く小鉢に盛ってからゴマをぱらりと振り、おイネは酒を
飲んでいる義兄の前に小鉢をコトリ、と置いた。

   「蒟蒻しか無いからこれで勘弁してね。兄さん」

   「お、こいつは旨そうだ」

煎り蒟蒻に鷹の爪と醤油で味付けしたのは昔から好物なのだが、おイネが自分のために常に蒟蒻を
切らさないようにしていることを政三は知らない。

            こんにゃく煎り煮 
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夫婦喧嘩 


大工の虎三がももひき長屋に帰ったのが暮れ六つの鐘がボヲンボヲンと聞こえてまもなくの頃。
女房のお熊が晩めしに出したのが山盛りのサツマイモだけだったので

   「オイ、一山八文のイモが晩めしか。こんなのが食えるか!
    見てみろこのイモ てめえの顔にそっくりで不味いに決まってるぜ」

   「ハァ? どこがそっくりなのさ。それよりお前の顔のほうがオオゴトじゃないか。
    なんだい!すりこぎの立ち往生したようなその鼻は。
    それに顔色ときたら虫のケツ(尻)みたく悪光りしてるくせに」

   「なにお てめえ言葉が過ぎると 叩っ殺してやるぞ!」

たかが晩めし、されど晩めし。サツマイモで始まった夫婦喧嘩は売り言葉に買い言葉。
お熊も亭主の殺してやるの一言に頭に血がのぼり、鬼のような形相で

   「ヲヲ、殺さば殺せ。幽霊になってとり殺してやるゾ」

と、歯ぎしりしながら言ったその顔を見てハッと正気に戻った虎三

   「オイ、大根茹でるから その間に その面(ツラ)で 辛子かいてくんな」

    さつまいも 辛子かき
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カラシかき 


田楽を食べたくなったのでコンニャクを茹でていると亀吉が現れた。

   「じゃ亀公は辛子かき(からしかき)をやっとくれ」

   「ヘイ。ですが辛子を出し汁でって、こんなの初めてだ。
    普通は水かぬるま湯なのにホントに大丈夫ですかい」

もうこんにゃくの田楽にありついた気で目尻が下がった亀吉は今にもヨダレが落ちんばかり。

   「これは砂糖や酒と一緒に味噌に入れて、茹でて油で炒めたこんにゃくごと
    煮詰めるんだからいいのサ。
    ところで亀。そんな顔してるくせに、案外辛子かき上手いじゃないか」

   「アッ 姐サンひどい!そんな顔してだなんてヒドイ ぐすん。。。」

アラ!? あたしひどいコト言ったかね?
だって よく言うじゃないか辛子は怒ってかくと、辛〜いのが出来るってサ。
えびす顔してても いいのが出来たじゃないかと、心底感心した上での言葉だったんだけどねえ。
 
              からし
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知人多し 


鐘ケ淵の赤山老宅を訪れた客人が

   「来る途中に大川で見ましたが世の中には泳ぎの達者がいるものですなあ」
   「ほう、してどのような?」
   「うつむけになって身動きもせず十丁(一キロ)ばかり。
    それから沖のほうへ出てゆかれました。
    それ以上は目も届きませぬゆえ見るのをあきらめた次第です」

それは「おおかた土左衛門でござろう」と言い放った赤山老に、客人が

   「おお 名まで御存知とはさすが。 ご隠居はお顔が広い」

毒気を抜かれた赤山老人、憮然とした顔で茶を飲んでいる。

              大川

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寝落ち 



まだ日も落ちていないというのに落ちてしまったのはアタシ。
波池様に頂いたネズミ算をなんとか解こうと振り絞った気力も ・・・ モウ駄目でございます。


  正月にねずみ、父母いでて、子を十二ひきうむ、親ともに十四ひきに成也。
  此ねずみ二月には子も又子を十二匹ずつうむゆえに、親ともに九十八ひきに成。
  かくのごとく、月に一度ずつ、親も子も、まごもひこも月々に十二ひきずつうむとき、
  十二月の間になにほどに成ぞ。

(ナル)ゾと聞かれりゃ、そりゃあ ネズミが一匹、ネズミが二匹に十二匹 。。。
あはー  もう もう 眠とうございま ス 
 
       お、お休みなさいませ ,,,,,,,,,

           落日

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ネズミ 


珍しく波池様がアタシの家にお見えになり、

   「おせん殿、かねてより世話になっておるが、これはその礼じゃ」

と、四角くたたんだ紙をアタシの手にお渡しになり そそくさと帰っていかれました。

ウヒッ これは恋文か!? はたまた茶屋か芝居見物のお誘いか ......
そろそろ年増のアタシもついにお侍様の奥様か!
丸髷を結った自分が波池様に寄り添っているのが浮かんでは消え、消えては浮かびます。

で、心弾ませながら頂いた紙片を開いてみれば、そこには墨跡も鮮やかに

  正月にねずみ、父母いでて、子を十二ひきうむ、親ともに十四ひきに成也。
  此ねずみ二月には子も又子を十二匹ずつうむゆえに、親ともに九十八ひきに成。
  かくのごとく、月に一度ずつ、親も子も、まごもひこも月々に十二ひきずつうむとき、
  十二月の間になにほどに成ぞ。


ヒェーッ。。。
これって二匹の夫婦ねずみが子を産み増やせば十二ヶ月後に何匹に増えているかという事だろ?
アタシのいちばん苦手な算術じゃないか ・・・ああ、頭が痛くなりそぅ
旦那ったら なんでこんなのを。。。


さて、我が家に戻った波池浪人
算術ほどおもしろいものはない。おせん殿も喜んでくれるであろう ......
と、自分の思いつきに満足げ。
フフ、答えが二百七十六億八千二百五十七万四千四百二匹と出たあかつきには次の問題も要るな。
どれ、みつくろっておこう。

と、どこまでも野暮天なお人のようです。
                       ねずみ
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ゲゲゲの朝拝 


ついこのあいだ(文化十一年:1814)出た『江戸神仏願懸重宝記』なる案内書が評判です。

それに惜しくも載る事が叶わなかった媛垣神社ですが、それでも御神体が夫婦岩になったせいか丑の刻参りが
ピタリと止まった上に参拝者が増えに増えました。
当然の事ながら神主は、もうウハウハと噛み殺した笑いがホッペタを突き破らんばかりの恵比寿笑い .....

きょうも日課の朝拝をしているうちに『賽銭箱をひとまわり大きくせねば』などと雑念が浮かんできて

   「この幸運もウチの御神体のおかげに違いない。
    ああ、なにとぞ直接に御神体を拝みたいものだ ....... 」

熱心に祈っていると中から扉が押し開かれ、嗅いだことのないような異臭がさっと漂って現れ出たる御神体。


けれど、その悪臭のもの凄さと見ための汚さ、みすぼらしさに

   「あなた様が媛垣神社の御神体にござりますか?」

と不審顔で問うたところ

   「イイヤ、違う。ワシは貧乏神でただの仮屋住まいの身じゃ。が、それもきょうで終いじゃ。
    賽銭箱に投げ込まれる銭の音が煩わしいゆえにのう」

と、言うや その姿は朝もやの中にかき消えてしまいました。

                神社  すずめ
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にわか孝行 


江戸では中堅どころの米問屋である千寿屋の息子がどうにもならない怠け者だというのは既に知れ渡っている。
日がな一日黄表紙を読んでいたかと思うと、次の日は町に出て女の尻を追って日が暮れるといったあんばいで、
そんな息子が稼業の手伝いなどするはずもない。

見かねた縁戚の長老が、かの息子を呼びつけて

   「お前は四十にもなって親に不孝するとは何事だ。
    もろこし(唐土:中国)の老来子が子どもの小袖を着て戯れたのが七十才の頃。
    なんでだとは言わさぬ。
    年老いた親に子ども姿を見せ、親におのれはまだ若いのだと思わせたかったからじゃぞ」

さすがにその話をもっともなことだと思った息子は大島の綿入れをこしらえさせ、それを着るや大張り切りで
飛んだり跳ねたり、とんぼ返りしたりと親の前で大奮闘。すれば、おふくろ様は涙を流し

   「さてさて長生きすれば色々と悲しい目にあうものじゃ。こうなれば早くお迎えに来てもらいたい」

それを聞いた息子、ここぞとばかりにおふくろ様を励まし

   「お迎えを待つだなんて! こちらから下駄をつっかけて行くぐらいでなきゃ」


                でんでん太鼓
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