おせんの江戸日誌

江戸と平成の世を行きつ戻りつの書き散らし

戸板組 


洗い髪の若い女が仕事帰りの伝蔵を追い越して行ったあと、湯上がりのいい匂いが残った。
前を行く女の白っぽい着物を夕日が茜色に染めあげ、乾きかけの黒髪は風にふわりと流れている。

 「 ムフ いい臀(しり)してるじゃないか ..... 」

伝蔵がその女に続いて媛垣神社の鳥居をくぐったのは、別に女の臀に惹かれたからではない。
湯屋帰りの足で、しかもよりによって逢魔が刻などに神社参りというのが腑に落ちなかったからなのだ。
しかし、伝蔵はしくじった。不審は不審のまま、ましてや好奇心など捨て置けば良かったのである。
女は妖縛師のタマキ。この世にさまよう霊魂や妖怪を回収し、しかるべき供養をするのを生業としている。
神社の森深くまでタマキを追った伝蔵は、彼女と妖怪の魂も凍りつくような戦いを目撃してしまった。

    ギッエーッ!

絶叫で外れた顎、股から足にしとどに流れ落ちる尿(ゆばり).....
腰が崩れへたりこんだ伝蔵、それでもなんとか神社の外まで這い出ることができた。
それを迎えたのがパッチ腹掛け姿のゴツイ男四人組。すでに戸板を用意している心得の良さ。

彼らは近頃江戸で噂の新商売、その名も戸板組。何かに驚き怯え腰を抜かした人を運ぶのが商売なのである。
妖怪退治組合との連携はもちろん、夏本番を控え有名な幽霊の出場所は既に幾つか抑えているのだとか .....
                 伝蔵 小
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