おせんの江戸日誌

江戸と平成の世を行きつ戻りつの書き散らし

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忍ぶ忍ばず恋や恋 


恋は女子(おなご)の癪(しゃく)の種。
娘盛りの物思い、寝ては夢起きてはうつつと近ごろのおりんの様子はただごとではありません。
それを見てとった乳母(うば:養育係)

   「お前さまには思う御方がいらっしゃる様子。どなた様でございます。言いなされ」

日を変え所を変え、幾ら問うてもおりんは首を横に振るばかり。
では気晴らしにでもと乳母が連れ出したのが冬枯れの不忍池(しのばずのいけ)という寂しげな所。
おりんにしてみれば、強い勧めに渋々従ってはみたけれど案の定というかやっぱりというべきか、目的の不忍池
には片思いに悩む身にとっては気が滅入るばかりの寒々とした光景が広がっているばかり。
その上急に腹の具合を悪くした乳母が茶屋の後架(便所)にこもりきりと散々なことになってしまいました。

中々帰ってこない乳母を待つあいだ枯れ蓮の合間を泳ぐ鴨を見、その鴨目がけて餌らしきものを投げている人の
背を眺め、と所在なげだったおりんだったので、池沿いに歩いてきた人の中に恋しい人の姿を見つけ

   「アッ 弥三郎さんッ 」

日頃の慎みやたしなみをすっかり忘れてその胸に飛び込んだのも無理からぬこと。

驚いたのは弥三郎。いきなり懐に飛び込んできたおりんとは一度会ったきり、けれど何を隠そう自身もおりんを
忘れかねていたところだったので、胸ぐらにしがみつき声を殺して泣くばかりのおりんの肩をそっと抱いて

   「おりんちゃん、そんなに泣いちゃ 死ぬはずの池になっちまうぜ。もう金輪際泣かせはしねえからよ」

と言えば、おりんもようやく泣き止み「ほんに気が揉(も)めの吉祥寺でございました」と涙顔でにっこり。

美男美女の、錦絵から抜け出してきたようなふたり。どうやら相性もぴったりなようでございます。

       不忍池 
                             小町かぶれ
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