おせんの江戸日誌

江戸と平成の世を行きつ戻りつの書き散らし

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
trackback: -- | comment: -- | edit

拾ってしまえ 


木枯らしの中、江戸の方角からやってきた空の荷車が宿場町に入って行く。
引いているのはまだ若い男で、その横を歩いているのが父親らしき年配の男。
ここ内藤新宿は江戸日本橋からはおよそ二里、青梅街道と甲州街道に分岐するところにあり人馬の往来も
ひときわ激しい宿場町である。

ところで荷車の二人連れだが、これは宿場近くの角筈村に住む治平親子でいつも江戸市中まで出て野菜を
売っており、きょうも市中での商いを終えて帰る途中だったのを父親が荷車を止めさせ

   「オ、あるある。オイ、作造 早く拾え!拾え 」

息子に指図したあと治平は荷台にヨイショと腰をおろし煙管を取り出し一服し始めた。   

道筋に点々と落ちている馬の糞は手のひらに乗るくらいの大きさでコロンとしており、臭気も強くない。
その湯気がたっているのをひょいひょいと拾っては次々に竹ザルに入れてゆく作造の吐く息は白い。

しかし、往来でそんな事をしていても、さすが『 四谷 新宿 馬の糞 』と言われる町ならではで、道行く人
に馬糞を拾う者を物珍しそうに見る者はいず、もちろん気に留める様子すらない。
街道筋の馬糞を集めて堆肥を作り田畑に使うことなど格別珍しい話ではないしありふれた光景なのだ。

栄養のあるものを食べている人のモノよりは品質は落ちる馬の糞だが、人のモノと違ってただで手に入る。
それに家で飼っている鶏や牛のものよりも優れた肥料になるのだ。

   「おっ父、きょうは沓(くつ)もあるから兄ィが喜ぶゾ」

馬の蹄(ひづめ)を保護するために履かせている馬沓は古くなるとそのまま捨てられるのだが、これも立派に
堆肥作りに役立つのである。

運良くたくさんの馬糞を手に入れることが出来た作造、沓持つ手を治平に振るその顔が笑っている。

にほんブログ村 小説ブログ 掌編小説へ                                      
             歌川広重 江戸百景 四ツ谷内藤新宿
     歌川広重名所江戸百景 四ツ谷内藤新宿
         馬が履いているのは馬沓(うまくつ:馬専用のわらじ)

thread: 花の御江戸のこぼれ話 | janre: 小説・文学 |  trackback: -- | comment: 0 | edit

コメント

コメントの投稿

Secret

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。