おせんの江戸日誌

江戸と平成の世を行きつ戻りつの書き散らし

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梅本三勝 


冬の日差しが障子に庭の松の影をくっきり浮かべ、まるで一幅の絵を見るようである。
深川での芸者稼業をすっぱり辞めた三勝はこの家で幾人かの弟子に三味線を教えている。
弟子は商家の娘がほとんどで、中には元芸者の美人師匠を狙う不埒な男もいるようだが三勝は意に介さない。
それは『弟子がいればこそオマンマが食べられるからサ!』と、割り切っているからなのだ。

糸銭として二十四文を毎月の末(晦日)ごとに受け取り、その他にも張替銭、畳銭、炭銭などを年に一、二度。
それらと別に謝礼があるのはどこの師匠も一緒で、三勝の場合は五節句のたび一分とっている。

   「だからサ、菊乃ちゃんもくよくよ考えずに芸者辞めちまいな。
    芸事は素人になっても続けられるし、弟子をとれば暮らしは立つし。
    マ、菊乃ちゃんは大店のお嬢様だから暮らし向きの心配は無いだろうけど」

庭に面したその部屋には長火鉢の鉄瓶がシュンシュンと音をたてている。
菊乃は芸事が好きで芸者になったのだが慣れてきた今ごろになって宴席が厭になってきたのだ。
お座敷に出て歌や踊りを見せても相手は酔客か、芸者を転ばすことを考えているヤツかの二通りしかない。
それでいいかげん厭になっているところに菊乃を描いた春画が市中に出回ったのである。
それもこれも売れっ子芸者の避けて通れない道、と思いもした菊乃だった。
が、どうにも我慢ならなくなって可愛がってくれた三勝の家を訪れ、相談を持ちかけたのである。

借金ずくで芸者になった訳じゃなし、辞めちまいな。芸事は素人でも極められる。
三勝姐さんのその言葉が帰る菊乃の足を急がせ弾ませているのは間違いない。
            三味線
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