おせんの江戸日誌

江戸と平成の世を行きつ戻りつの書き散らし

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
trackback: -- | comment: -- | edit

苦しまぎれ 


へえ、タロですかいと不服げにつぶやいた後に伝蔵はだんまりを決めこみ土間に突っ立ったままでいる。
が、その足もとの子犬は早くも飼い主伝蔵の不機嫌を察したらしく、低く構えウウと唸って卜内を睨んだ。
柴犬は主人に対しては非常に忠実な反面、よそ者や主人に敵対する者に対しては警戒心をむきだしにする。
この子犬は赤褐色の短毛、立ち耳で尻尾は巻き尾という特徴を備え、まぎれもない柴犬なのであった。

   「これ伝蔵、タロですかいという言い草はないゾ。タロも怒っちゃいかん。
    タロはタロでもそこいらのタロとは訳が違う。由緒正しいタロなのだ。
    言うてもおぬしのような無学な者には分るまいが、タロは古事記からとった名じゃ フォフォ 」

おぬしに犬に勇敢な名をつけてくれと頼まれ、夜も寝ずに考えたのじゃ。と、上がりかまちに仁王立ちの卜内。
たとえば雷(イカヅチ)だとか疾風(ハヤテ)の案も出た。が、字面(じづら)は良いが呼びにくい。
その他も一長一短、行き詰まって何気なく枕元にあった古事記をぱらぱらと流し読みしたんじゃが 喜べ伝蔵!
おかげでスサノオノミコトにたどり着けたのじゃ。が、スサノオでは呼びにくくミコトでは勇猛さが出ない。
で、スサノオが退治した八岐大蛇(やまたのおろち)に決めたという訳じゃ。退治されたといっても霊性強く後世
まで名の残ったヤマノオチ。その『タ』と『ロ』を頂いての命名じゃ。文句は言わさんゾ。カーッ(喝)

卜内の突然の大声にたじろぐ伝蔵を尻目に、子犬はひとっ飛びで卜内の着物の裾に喰いついて離さない。が、
タロやめろと叫んだ伝蔵の声を聞き分けた子犬、どうやら名はタロに落ちつきそうな雲行きで目出たし目出たし。

ところで卜内の家にあるのは黄表紙ばかりで古事記などは無いし命名理由も取って付けた嘘。
褌の儲けで遊所に通い詰めだった卜内、名付けを頼まれていた事などすっかり忘れていたのである。
が、訪れた伝蔵に忘れていたとは言えず苦しまぎれに『名』の字を分解したものを披露しただけに過ぎない。
けれど、名前の真の由来は伝蔵とタロには内緒にしておくのが やっぱりいいかもしれない。
            タロ 柴犬 子犬
にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ
         月岡芳年
         『日本略史 素戔嗚尊(スサノオノミコト)』に描かれたヤマタノオロチ 月岡芳年 画
thread: ショートショート | janre: 小説・文学 |  trackback: -- | comment: 2 | edit

コメント

祝!名前決定

「タロ」ですか。「タロ、タロ、タロ」呼びやすいです。

う~む、「名」の漢字を分解して「タロ」とは気付きませんでした。やりますね、卜内氏(「ヤマタノオロチ」から来たと言う説明はかなり強引ですが(笑)。

千鳥道行 #EBUSheBA | URL | 2013/01/20 07:01 * edit *

Re: 祝!名前決定

> 「タロ」ですか。「タロ、タロ、タロ」呼びやすいです。
  
   日本の男なら太郎がスタンダード、雄犬ならタロ ....
   奇をてらった名前の多い昨今、色あせ気味のスタンダードかもしれません。

> ・・・卜内氏(「ヤマタノオロチ」から来たと言う説明はかなり強引ですが(笑)。

   卜内さんは職業柄か、強弁には実力&自信があるようです。
   今回は喝の荒技まで動員しましたけれど e-451


おせん #- | URL | 2013/01/20 07:46 * edit *

コメントの投稿

Secret

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。