おせんの江戸日誌

江戸と平成の世を行きつ戻りつの書き散らし

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
trackback: -- | comment: -- | edit

春の朝 


野良犬が、開けたばかりの茶店の前を白い息を吐きながら横切って行った。

きのうまではずいぶん暖かかったのに、今朝は霜がおりていたものねえ。
こういうのを寒の戻りと言うのかしら それにしても梅の花のいい匂い ......

おゆみは手早く襷(たすき)をかけつつ、犬が去って行った永代寺の方を見やった。
まだ朝五ツ(午前八時)、道に人影はほとんどない。
その人影の見えない道筋を伝って八幡様の梅の香が流れてくる気がして、おゆみは大きく息を吸った。

おゆみは十二才、早くに両親を亡くし今は母方の祖父母と三人で永代寺近くの門前山本町に暮らしている。
住まいを兼ねたその茶店では、永代寺やその隣の富ケ岡八幡宮への参詣客相手の団子を売っており、祖母の
おツルが作ったそれは評判もいいらしく小さな商売ながら固定の客もついているらしい。

ところで、朝も早いこの時刻は団子はまだ準備の段階で売ることはできない。
売るのは房楊枝や歯磨き粉で、これは永代寺門前仲町に軒をつらねる娼家に泊まった客を相手にしている。
泊まりあけの男たちは五ツを過ぎてしばらくすると路上に現れ始め、茶店で買った歯磨き道具を携えるや
これも五ツから開く湯屋に行き、朝風呂でさっぱりするというわけである。

岡場所の近くで、朝っぱらから脂粉の香りを漂わせ酒焼けした男たちを相手に楊枝を売るのも悪くない .....
だって『とうてい岡場所帰りとは思えない』あの御方がいらっしゃるもの・・・
ほとんど毎朝のように茶店の前を通る若い侍が気になるおゆみの、これは初恋なのかもしれない。
                  紅梅
にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ
thread: ショート・ストーリー | janre: 小説・文学 |  trackback: -- | comment: 0 | edit

コメント

コメントの投稿

Secret

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。