おせんの江戸日誌

江戸と平成の世を行きつ戻りつの書き散らし

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むささび五郎蔵 

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ここは甲賀の下馬杉のあたり。夕暮れの道を、新八の背がみるみる遠ざかってゆく。
それを見送る五郎蔵は若い者を教導する熟練の忍者である。
新八はやる気も素質もある若者で五郎蔵にとっても教え甲斐があった。

いい風だ。久しぶりにやってみようかのう……彼奴も一刻ほどは帰ってこれまいて。

五郎蔵はふいに湧いて出た思いに我ながら驚きもしたが、異様な興奮を覚えたのも事実である。
そして、何かの欲求に取り憑かれたらしい五郎蔵の米粒のような両の目がきらきら光り始めた。
まだ二十そこそこの時に、それをやって頭領の怒りを買った五郎蔵である。
その時は岩牢に三月ほど閉じ込められただけで済んだが今度やれば命を失うことになるかもしれない……
五郎蔵は十五年前の頭領の凄まじい怒りを思い出しブルっと身ぶるいした。
が、しばらくのちには高くそびえる杉に登り、眼下に広がる草原を見おろしていたのだから素早いものだ。

枝にとまったままの五郎蔵はじっと動かない。
が、しばらくすると、その耳は闇に沈みこみつつある草原のどこかで草が異様にざわめくのを聞いた。
見れば、その草地の一ヶ所だけがひときわ大きく揺れ動いている........
たぬきか? 伊賀者か?  五郎蔵の鋭い目がそれを確かめようとしたその時、それは来た!
草原を渡ってきた風が杉の木の下から吹き上がってきたのだ。
転瞬、五郎蔵の足は枝から離れ、その体はふわりと宙に飛んだ。
並の人間なら真っ逆さまに落ちるところだろうが忍者五郎蔵はそうでは無かった。
風に乗って巧みに体の向きを調整しつつふわりふわりと緩やかに地面を目指している……

「 ケケケケケ」

飛びつつ思わず漏らしたにしては大き過ぎる五郎蔵の会心の笑い声が真っ暗な草原に響き渡った。
この時五郎蔵の脳裏に「術に溺れるのは慢心の現れ」と怒った頭領の存在は無かったのである。

と、その時ゲゲーッ 出ッ出たぁッ むささびの化物だあ……… 喚きながら 草むらから這い出した者がいた。
女は素っ裸のまま衣類を抱え込んで走り去ったが、男は這い出たものの腰を抜かしてしまっている。
この男、伝蔵のご先祖様であるのは間違いないようだ。
            いごく伝蔵
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コメント

ご先祖様

 そうか、ご先祖様ですか。伝蔵の「腰抜かせ」芸?は代々培われてきたものだったのかも知れない。

 宙を飛ぶ忍者としては「飛び加藤」が有名ですね。ウィキペディアによると直江大和守は庭園に番犬を放って飛び加藤と対抗しようとしたらしいですから、この番犬の子孫がタロちゃんかも知れない(笑)。

千鳥道行 #EBUSheBA | URL | 2013/06/09 11:44 * edit *

飛び加藤で思い出した

飛び加藤は鳶加藤、飛び加当とも言われているらしいですが、その鳶加藤のほうで一件。
宅八郎がとび職人をしていた頃もあるという私にとっては衝撃的な事実を思い出したのです。。。
べつにファンでも何でもないのですが、知った当初は人物イメージととび職のギャップがありすぎで。
なんだか宅八郎も好ましく思えたものです。

おせん #- | URL | 2013/06/15 11:15 * edit *

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