おせんの江戸日誌

江戸と平成の世を行きつ戻りつの書き散らし

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同じツボ 

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鶴田屋嘉兵衛がここまで地口(シャレ:言葉遊び)にはまると、誰が思ったろう。
誰も思わなかったに違いない。

誰もいないところで他所で聞いた地口を思い出してはウヒウヒ笑っている内は、まだ良かった。
だが、この病は急速に進行し、行きつくところまで行っても治らない......

今夜は菓子組合の寄り合いがあり、今しがた終わったばかり。
二次会はお定まりの芸者遊びということで早々に退散した嘉兵衛はとにかく早く一人きりになりたかった。
重要な案件の最中に誰かが言った『わらぞうり』の言葉が嘉兵衛を苦しめていたからである。

そんな嘉兵衛の袖を路地の暗がりから手を伸ばして掴み、引っ張り込んだ者がいる。
それは、寄り合いが終わるといち早く帰った筈の宇津屋善兵衞だった。
宇津屋は表情も乏しく無口で、組合の案件にも首を縦か横に振るだけで意志を表明し、思案が定まらぬ時
はじっとうつむいているような男である。その宇津屋が

   「鶴田屋さん、芸者はお嫌いですか」

   「エ、ハァ。 娘が芸者やってましたから どんな芸者もションベン臭く思えましてネ」

   「それは何より。実はとてつもなくおもしろい遊びがあるんですが今度どうでしょう」

無口な宇津屋が喋ったのも驚きだが、堅物そうなのに『おもしろい遊び』とは油断ならない男かも。
イエ結構ですと背を向けた鶴田屋に、後ろから宇津屋が「 まらぞうり」と一声あびせた。

   「春菓堂さんの言った『わらぞうり』でそう思われ笑いをこらえなさった。アタシも一緒です。
    誰も気づかなかったがアタシは気づいたんですヨ。それにしても鶴田屋さんが同好の士とは
    意外でした。組合仲間きっての謹厳実直の強面(こわもて)居士ですからねえ。フフ」 
     
牛は牛連れ、馬は馬連れと言うじゃありませんか。私が行ってる面白話の集まりに来ませんか。
自分が作った話を皆に聞いてもらえて心置きなく笑う。そりゃ面白くて楽しいものですヨ。
今度は池之端仲町の指物師の家に集まるんですヨ。

面白話の集まりまであと三日、家の寝床で嘉兵衛は指を折って数え、イヒヒと笑った。
           鶴田屋嘉兵衛
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thread: 花の御江戸のこぼれ話 | janre: 小説・文学 |  trackback: -- | comment: 2 | edit

コメント

ここがツボ

>面白話の集まりまであと三日、家の寝床で嘉兵衛は指を折って数え、イヒヒと笑った。
ここが一番可笑しかったです。

大真面目な嘉兵衛さんが大真面目にしょうもない事に熱中していて、なんとも可笑しい。

千鳥道行 #EBUSheBA | URL | 2013/07/07 16:08 * edit *

あれもツボ

寄り合い中に「わらぞうり」から連想した言葉が脳内を駆け巡りはじめ
連想は連想を呼び、果ては映像化すらしたのでそれをググーッこらえなきゃならない嘉兵衛さん。
その表情はとてもおもしろいだろうと思ったのですが、書けませんでした。
こう暑くっちゃ根気がなくって。。。

おせん #- | URL | 2013/07/09 16:08 * edit *

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