おせんの江戸日誌

江戸と平成の世を行きつ戻りつの書き散らし

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夜光芝居 

西の空が赤く染まり、茜色の雲がいくつも浮かんでいるのが見えた。
日は沈んでも、この浅草奥山のあたりはまだ薄明るく、行き交う人々の顔もはっきり見える。
そして、さっきから何組もの親子連れが双助の前を急ぎ足に通り過ぎていく。

  すっかり暗くなっちまう前に連れて帰る気だろうが、そうはいかねえ

子どもをつかまえるなら今だ。双助は地べたにおろしたばかりの道具を組み立て始めた。
木の枠に紙を貼ったものを、二本並べて立てた支柱に固定し、枠から下は黒い布を垂らした。
そして木枠の紙面に向けた龕灯(がんどう:現代の懐中電灯みたいなもの)に火を入れた。
隣の飴屋に親子連れが二組いるのは、さっき確かめてある。
双助は黒布の後ろにしゃがみこむと、大きな声で、コーン!と鳴いた。
そして拍子木をカチカチカチと鳴らし、また コーンと鳴いた。
黒布の後ろにいても、ザワザワと人が集まってくる気配がわかる。

双助が右手で狐の切り絵を差し上げると龕灯からの光線で紙面に狐の頭部がくっきり映った。
そして続けて左手で狸の姿を映し出すと、子ども向けの『化けくらべ』の影絵芝居が始まった。

双助の影絵が子どもに人気を呼んだのは手で形作った影絵でなく、切り絵を使ったこと、それが
立体的でしかも美しいものだったからである。
たとえば狐が娘に化ける話なら、その双方の姿を同じ大きさで作り、中央に切り込みを入れて
真上から見れば十文字になるよう串にはさみこむのである。
紙面に娘姿が映し出された時、狐の姿は光源に対して平行となっているので映らない。
そして狐の姿に映し替えるのも一瞬にしてでき、その早変わりは画期的と云ってもよかった。

子どもらが帰ったあとだが、そこは商売、大人向けの艶っぽいものを抜け目無く用意していたので
これがもとで、双助はお座敷に頻繁に呼ばれるようになったという。
          狐
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