おせんの江戸日誌

江戸と平成の世を行きつ戻りつの書き散らし

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ふしぎ男 

湯屋に行って参ります。という朝松の声に、主人の勘兵衛は「長湯はいけないよ」と答えたのだが
戸が閉まった途端、ふふと笑った。奉公人の中でも朝松の風呂好きは群を抜いているからである。

 長湯が過ぎて、あいつ湯に溶けたんじゃないか? だったら ざる持ってって、すくわなきゃ。
 いや体がふやけてデカくなったから、きっと ざくろ口を通れないんだろうヨ。

番頭と手代のそんな掛け合いを思い出し、勘兵衛がまたヒヒと笑った時、表の戸がホトホト鳴って
ただいま帰りました、と朝松の声がした。
朝松はさっき出かけたばかりである。まだ湯屋に着くか着かないかの、そんな時刻である。
不審に思った勘兵衛が戸を開けると、そこにはまぎれもない朝松の姿があった。
ただ、朝松は出て行った時の姿とは大違いの、杖を手にした旅姿。持っていた藁包(わら包み)から

   「旦那様、半年のあいだ留守にしまして申し訳ございませんでした。これはお土産です」

自然薯を取り出し、勘兵衛の前に差し出してきたので「どこへ行っていたのだ」と調子を合わせると
ハイ、秩父山中でございます。あちらの御主人様が「そろそろ江戸に返してやろう」と申されました
ので、旦那様への御土産にこの薯を掘ってまいったのでございます。と、思いもかけぬことを言う。

半年前に秩父へ行ったといっても、このお店から朝松がいなくなったという事は一日たりともない。
現に、さっき湯屋へ行ったばかりじゃないか .......
腑に落ちない勘兵衛に「旦那様お先に休ませていただきます」と、朝松は自分の寝間に入ったのだが、
勘兵衛は、あまりの不思議に寝るどころの騒ぎではない。

そして、湯屋に行った『もうひとりの朝松』は、ついに帰ってこなかったのである。
             店先
               ドッペルゲンガー(Doppelgänger)
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thread: 花の御江戸のこぼれ話 | janre: 小説・文学 |  trackback: -- | comment: 2 | edit

コメント

仙童寅吉

 平田篤胤の仙童寅吉の話のようですね。(もっとも、朝松さんの方は替え玉がちゃんと代行してくれていたらしいから、一枚上手)
 「あちらの御主人様」とは人か天狗か、はたまた鬼か。また一体どんな仕事を手伝っていたのやら。
 お土産が自然薯というのもリアルですねぇ。
 

千鳥道行 #EBUSheBA | URL | 2013/09/16 11:55 * edit *

不思議

その「あちらの御主人様」は行者か高僧にしようかと思いましたが結局割愛。
長くなると書くのはもちろん読む人にも面倒なように思えまして。
ボロも出そうだし。

あの あたし、不思議話は好きなんですヨ。

おせん #- | URL | 2013/09/21 03:40 * edit *

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