おせんの江戸日誌

江戸と平成の世を行きつ戻りつの書き散らし

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機転夫婦 


貞元寺門前の永楽は江戸の数ある料理茶屋の中でも格式が高く武家の利用も多い。
それも千石級の旗本から江戸屋敷留守居役などであり、稀に大名の子息などのお忍びもあって
平たく言えば、永楽という茶屋は庶民が気軽に出入りし飲み食いするような店ではないのである。

その永楽に今夜は西国某藩のお殿様がお忍びで来られるのだとか。
藩の重役級の来店食事など珍しくもないが、藩主直々の来店となるとこれはまずあり得ないことである。
店側としては来てほしくない客と言ってもいい。絶対に粗相は許されない。
それに料理や食器、部屋のしつらえや接客などすべてに満足してもらわないといけないのだ。
ために主人から下働きの者まで店の者は夜が明ける前から全員が起きだし、入念な準備をしたものである。

そしていざ本番、店が本来持っていた実力と当日の努力気配りの甲斐あって殿様は御満悦。
庭から帰るのも風流じゃと殿様の思いつきで駕篭も供の者も急遽庭先に回り、見送るためにずらり並んだ
店の者の見守る中、沓(クツ)脱ぎ石から下りた殿様の懐からどうした弾みか何かが地面に落ちた。

秋の冴えた月光に照らし出されたそれは高麗青磁の小鉢であった。
永楽初代の百三十年前から伝わる名品で、今宵それに銀杏の真薯蒸しを盛って殿様に供したのだが .......
その小鉢が殿様の懐からポロリとは・・・そこに居た者すべてが凍りついたのは言うまでもない。

が、しかし永楽の主人重蔵と妻おひでの行動は早かった。
落ちた小鉢をさっと拾って「御土産を包みもせずに不躾なことを」と殿様の前に土下座した重蔵。
そこへ、いったん奥に駆けこんだおひでが戻り、紅白の組紐でくくった古びた木箱を差し出した。

気に入った小鉢を出来心で懐に入れたのがばれたのを土産と言ってくれた重蔵のおかげで面目も立ち、
落ちた小鉢と揃いの残り九個も御土産として貰った殿様が御機嫌で帰られたのは言うまでもない。
                        城
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