おせんの江戸日誌

江戸と平成の世を行きつ戻りつの書き散らし

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人さらい 


外に出ちゃいけないヨ。それに知らない人と話してもいけない、連れてかれるからネ。
母親のおくめのいつもの念押しにもかかわらず、小はるは家の戸を開けた。
長屋の路地に入ってきたらしい風車売りの声に惹かれたからである。

五年ほど前、小はるを連れてこの長屋に移り住んだおくめはすぐ通いの女中奉公を始めた。
そんな貧乏人の子どもをさらっても身代金など取れはしないのだが、子どもの容姿がよければ
話は別、金をだしてでもと欲しがる人はいくらでもいるのである。

ここで風車は売れないとみて荷をかつぎなおした風車売りは、家から出てきた小はるに気づき
ポカンと口をあけた。
はきだめに鶴と評判のおくめにそっくりの小はるなのである。
男はかついでいた荷を急いでおろし、近寄ってきた小はるに風車を渡しながら
 
  「ひ、ひ、ひ ひさしくあわねえうちにだいぶ背が高くなったなあ。
   む むかし羅漢サンに連れて参った時にゃ まだ赤ん坊だったのに よぉ ..... 」

言う声が震えている。
桶職人だった久三は江戸に帰るとすぐ以前住んでいた家に向かった。
だが長屋は更地になっており女房と赤ん坊の行方はいくら探しても知れなかった。
それからずっと風車を売りながら探していた我が子が目の前にいる ....
酒に酔って喧嘩相手を半死半生の目にあわせた、その刑罰は四年の江戸払いですんでいる。

下駄の音が、しゃがみこんで泣いている自分の背後で止まり「小はる何して」と言いかけた
女の声が嗚咽に変わっていくのを、久三は夢の中にいるような気持ちで聞いていた。

                    でんでん太鼓
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