おせんの江戸日誌

江戸と平成の世を行きつ戻りつの書き散らし

妙な客 享保元年九月 参道の女その一 

作次が気づいた時にはもう、その婆さんは店先にある縁台に腰をおろしていた。
婆さんは今日も急いでやって来たらしく後ろ向きのその肩が弾んでいる。
婆さんは月に五、六度ほど作次の茶店にやって来るのだ。
茶店は本所五ツ目の堅川と小名木川との間にある羅漢寺の前にある。
この辺りは人家も少なく田んぼや畑がどこまでも広がってい、田舎といってもいい。
羅漢寺には五百体もの羅漢像があるという。
羅漢像の中に死んだ近親者の顔を見つけることができるというので、この寺を訪れる人は多い人は多い。

婆さんもその一人なのだろうか。
婆さんは作次のところで茶を飲み終えると羅漢寺に向かう。
そしておよそ一刻もすると参詣を済ませた婆さんがまたもや作次の店に入るのだ。
その時は羅漢寺を背にして腰をおろす。

つまり外ではなく店の中を眺める具合になるのだ。
参詣を終えた婆さんはいつも黙りこくっている。けれど団子と茶は出す。
それは死んだ父親が元気で、作次がまだ赤ん坊だった頃からのことなのだ。


 


初めてチャレンジしたホームページ連載時代小説:作2009年
今はもう消失したホームページなので、これは記録として。
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