おせんの江戸日誌

江戸と平成の世を行きつ戻りつの書き散らし

焼き芋 享保元年十月 参道の女 その七 

五平考案の焼き芋はたちまち大評判をとって売れに売れた。
羅漢寺に参詣に訪れた人や通りがかりの人のみならず、寺の小坊主や坊さんまでもが
こっそり買いに来るほどなのだからその評判のほどが知れよう。
たけ屋の周辺の茶店がこれをいち早く真似たのは当然ともいえる。
それまでサツマイモは茹でるか蒸して食べるのが一般的だった。
それが焼き芋にすると、まるでまったく別の食べものになる。
パリッと焼きあがった皮の中はほっこり甘く、香ばしい匂いもたまらない。
人々は焼き芋に夢中になり、その商売はたちまち江戸市中に広まっていった。

そんなある日、泊まりがけで遊びに来ていた伝吉が、五平が帰ったあと妙なことを言い出した。
老舗『鶴田屋嘉兵衛』から五平が出てくるところを見かけたというのだ。
鶴田屋嘉兵衛は両国広小路に店を構える菓子商で、大名家にも出入りしている大店である。
ここの『栗落雁』は非常に有名で、西国にまで名を知られているとか。
これは山栗と和三盆が材料で、山栗の野趣と和三盆の上品な甘みが絶妙の高価な佳品である。
安価なものでは『小つぶ千両』というこしあんを使った団子があって、これも非常に美味い。
女中や丁稚の給金で買えるものだから、これを五平が買いに行ったとしても別に不思議ではない。



注)実際に焼き芋が江戸で流行ったのは、たけ屋売り出しより数十年のちという説が有力でございます。
  こちら参道の女のほうは軽く読み流してくださいますよう。くれぐれも念のため。

                              踊る男


参道の女はむかし書いたものでございます。
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