おせんの江戸日誌

江戸と平成の世を行きつ戻りつの書き散らし

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
trackback: -- | comment: -- | edit

ぬか屋の文次 


ちょっとだけだぜ、と言いながら店が閉まるまで居続けるのが助蔵の癖で、いつも長酒になってしまう。
相手の文次にしても、そっちのほうは嫌いではないので結局のところ一緒に長酒してしまうのである。
きょうも助蔵に誘われて長居を覚悟で入った飲み屋で里芋を肴に冷やでやりはじめたばかり。

ふたりは染め物職人で型付師の助蔵が生地に型染めで模様をつけて防染の糊置きを終えると、文次が糠を
振りかけるという糠屋(ぬかや)、いわば相棒である。
糠を振るのは糊を早く乾かすためと糊が割れるのを防ぐためで、二人の呼吸はぴったり合っている。

  「助蔵さんの型送りは神業だ。柄合わせに寸分の狂いもねえ」
  「へヘッ 神業は大げさだろ 文次。気を張りつめてやりゃあ、誰でもできるぜ。
   それより おめえの糠振りだけが頼りの俺だ。今までの奴ときたら散々だったものなあ ...... 」

確かに糠もただ振ればいいというもんじゃない、糊置きしたところに適度な量をまんべんなく振らなきゃ
ならないからな、と助蔵の言葉に満更でもない文次に

  「ところで文次、おめえも所帯を持ってひと月になるが上手くいってるようじゃないか。
   初めのうちはお兼なんて厭だと逃げ回っていたのによ」
  「所帯持つ前にアイツが灸をすえてくれた事があったんですけどネ、それが玄人はだしで」
  「ア、腰を痛めた時かい? そうか。お兼ちゃんにそんな技があったのか ...... 」

親同士が決めた許嫁(いいなづけ)なんてまっぴらと逃げ回っていた文次に対し、ずっと一途だった
お兼、どこで習ったのか巧妙な灸技(?)で初恋の男を射止めるとは、たいしたものではないか。

まだ店に入って半刻もたってないのに、『そろそろ帰らなくちゃな』と、所帯持ちになったばかりの
文次の尻は半分浮いている。
            江戸小紋
にほんブログ村 小説ブログ 掌編小説へ                                      
thread: 花の御江戸のこぼれ話 | janre: 小説・文学 |  trackback: -- | comment: 0 | edit

コメント

コメントの投稿

Secret

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。