おせんの江戸日誌

江戸と平成の世を行きつ戻りつの書き散らし

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いもうと 


もうとっくに閉めてもいい時刻だというのに店の中にはまだ一人が残っている。
数日前から店のどこかに住みついたらしい虫が、コロコロコロ リーリーと鳴く声を聞きながら
おイネはちぎった蒟蒻(こんにゃく)を、熱くした鍋で手早く煎りつけ始めた。
最後の客は、おイネに背を向け入口に向いた格好で静かに酒を口に運んでいる。

 フ、相変わらずだネ 兄さんは 。あれでアタシの用心棒のつもりなんだ ......

おイネの口元にかすかな笑みが浮かんだが、それはすぐに消えた。
この店で働いていた姉さんが嫁に行ったのが三年前で、後を継いで手伝うようになったアタシを
兄さんはずいぶん心配してくれて、ずっと今夜のように来てくれてるわけなんだけど。
でもネ もういいんだ。義理なんかで来てくれなくっても。

だって兄さんと所帯を持ってすぐに姉さんは死んじまったんだし。
そうなったらアタシと兄さんとは赤の他人だもの。

それにネ、姉さんが人の男を横取りしたのは兄さんが初めてじゃないんだ。
だから サ、もうあの女の人のとこに戻っちゃえばいいのよ。兄さん。

ジジジと鍋の蒟蒻が音をたてたのを手早く小鉢に盛ってからゴマをぱらりと振り、おイネは酒を
飲んでいる義兄の前に小鉢をコトリ、と置いた。

   「蒟蒻しか無いからこれで勘弁してね。兄さん」

   「お、こいつは旨そうだ」

煎り蒟蒻に鷹の爪と醤油で味付けしたのは昔から好物なのだが、おイネが自分のために常に蒟蒻を
切らさないようにしていることを政三は知らない。

            こんにゃく煎り煮 
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独立短編ばかりの江戸日誌ですが、これは続きものとしても読めます。
 さしずめ霧色夜橋シリーズとでも ......

           壱)霧色夜橋 弐)女下駄 参)いもうと(当話)
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