おせんの江戸日誌

江戸と平成の世を行きつ戻りつの書き散らし

芋団子 享保元年九月 参道の女その四 

羅漢寺の門前には茶店が四軒ならんでおり、作次の店は『たけや』という。
(これから先は読みやすいよう『たけ屋』と書くことにいたします。)
享保のこの頃はまだ砂糖は高価なものだったので一部の人のものでしかない。
たけ屋の団子は米粉とゆでた芋を練り合わせたもので、出来上がりにすりゴマと
ほんの少しの塩を混ぜたものをからめてあり砂糖は使っていない。
それでも芋の甘みと黒ゴマの油気の相性が良く、ほのかな塩味がきいた団子には
ほっとするような味わいがあって腹もちも良いので人気がある。
熊造が考案したこの芋団子食べたさに羅漢寺詣でをする者もいるらしい。
冬場の甘酒や干し柿、夏の西瓜などがある時も芋団子の注文のほうが多い。
こうなるとたけ屋の芋団子は名物といえよう。

ところが作次が熊造のあとを継いで店に出るようになると様子が変わった。
芋団子は相変わらず売れている。
変わったのは客の層で、女の客が増えたのである。
女たちの目あては『本所のらかんさん』ではなく作次にあった。
どうやら役者と見まがうような作次の男ぶりが評判をとったらしい。
女の客が増えてきた為に店に入りきれない客も出てきはじめてきた。
例の婆さんもいささか居づらそうになってきている。
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熊造 享保元年九月 参道の女その三 


作次の死んだ父親は熊造という名の無口な男だった。
そのせいなのかどうなのか、熊造が作次の母親について語ることはなかった。
熊造は茶店で日銭を稼ぎながら男手一つで作次を育てあげたのである。
毛むくじゃらで、いかつい体つきの熊造は山賊もかくやと思えるような男だった。
一見の客が熊造の姿や顔を見てギョッとしたことが幾度となくあったのを作次は覚えている。
その作次はといえば、全く父親に似ていない男っぷりなのだから世の中おもしろい。
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色ぼけ 享保元年九月 参道の女その二 

きょうも作次は団子と茶を婆さんの横に置きながら素早く婆さんを見やり、目をそらした。
作次にしてみればこの婆さんはどう考えてみても妙な客なのである。
婆さんが身に付けているものは清潔なもので火のしもあたっている。
年相応の皺はあるが顔だちは穏やかなもので人品も良く、暮らしむきも良さそうだ。
供の者も付けずに来るがどこか大店のご隠居なのかもしれない。

店が開く頃合いにやって来る婆さんは参詣が終わると作次の店に腰を落ち着ける。
そして暮れ六つの鐘が鳴るまでの間、無言のまま居座り続けるのだ。
婆さんはいつもおとなしくしているし、他の客に迷惑をかけるわけでもない。
けれど近ごろの作次はこの婆さんに少しばかり閉口している。

見るのだ。婆さんがさりげない風を装って作次を見つめるのだ。
どうかして目が合いそうになると婆さんが視線をそらすことを作次は知っている。
それは子どもの頃から気づいていたことなのだが、近ごろそれが度を超してきている。
幼友達の伝吉は「そりゃあ色ぼけしてるのさ」と笑う。
しかしそうでないことを作次はなんとなくわかっている。
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妙な客 享保元年九月 参道の女その一 

作次が気づいた時にはもう、その婆さんは店先にある縁台に腰をおろしていた。
婆さんは今日も急いでやって来たらしく後ろ向きのその肩が弾んでいる。
婆さんは月に五、六度ほど作次の茶店にやって来るのだ。
茶店は本所五ツ目の堅川と小名木川との間にある羅漢寺の前にある。
この辺りは人家も少なく田んぼや畑がどこまでも広がってい、田舎といってもいい。
羅漢寺には五百体もの羅漢像があるという。
羅漢像の中に死んだ近親者の顔を見つけることができるというので、この寺を訪れる人は多い人は多い。

婆さんもその一人なのだろうか。
婆さんは作次のところで茶を飲み終えると羅漢寺に向かう。
そしておよそ一刻もすると参詣を済ませた婆さんがまたもや作次の店に入るのだ。
その時は羅漢寺を背にして腰をおろす。

つまり外ではなく店の中を眺める具合になるのだ。
参詣を終えた婆さんはいつも黙りこくっている。けれど団子と茶は出す。
それは死んだ父親が元気で、作次がまだ赤ん坊だった頃からのことなのだ。


 
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手形無くしオロウロ 

ざっと一年半、お久しぶりでございます。
実は江戸と平成の往来に必要な道中手形を無くしコチラに帰れずにおりました(マジで)。が
さっさと捜せば良いものを、のんべんだらりと平成で日を送り今日に至ってしまいました。

身すぎ世すぎのための平成での小銭稼ぎも、すっぱりきっぱり片をつけましたので
またコチラの江戸日誌にアタシの見聞したことなど書いていくつもりでおります。


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